技術は手段であり目的である

2025年12月16日

2025年12月16日

はじめに

「エンジニアにとって技術は手段である」とよく言われますが、この言葉を聞いたときに何となく違和感を覚えるエンジニアもいます。この問題を解決するためには、技術が何を指し、手段と目的がどのように関連しているのかを明らかにする必要があります。世間で曖昧にされることが多い言葉の再定義を通じて、技術は私たちにとってどのようなものであるかを考えます。

技術とは

古代ギリシャにおいて、技術はテクネーと呼ばれていました。テクネーは生成(ゲネシス)にかかわり、制作活動において発揮される能力であると考えられていました。ゲネシスは「ある時点でまだ存在しなかったものを、別の時点において存在させる過程」です。つまり、「まだ存在しないものを作り出す能力」こそ、技術であると言えます。

そして、テクネーの習得者は学問的な知識と経験を通じて、「なぜこうなるのか」を理解しています。この理解の流れとしては、学問的な知識が経験に裏付けられる、あるいは、経験が学問的な知識に裏付けられる、という2通りがあります。言い換えるなら、普遍から個別に向かうか、個別から普遍に向かうか、の2通りです。テクネーの習得者は制作活動における知識を、その原理に基づいて理解しているという点で優れています。

手段と目的の関係性

一般的には、手段は目的達成のための道具として用いられます。例えば、私たちは生活費を賄ったり、欲しいものを買ったりするためにお金を稼ぎます。この従属関係から、手段は目的よりも低次の概念であると分かります。また、ある目的は別の目的の手段として存在します。例えば、「お金を稼ぐ」という手段によって「食料を買う」という目的を達成し、「食料を買う」という手段によって「栄養を摂取する」という目的を達成します。つまり、ほとんどの行為は手段と目的の両方の役割を持っています。

このことから、手段と目的の区別は相対的であることが分かります。ある時点において目的であった行為は、さらに進んだ時点において手段に変化します。そうして目的を辿っていくと、最終目的(最高善)に到達します。余談ですが、これまでに様々なものが最高善として検討されており、「幸福であることが最高善だ」と言う人もいれば、「苦痛がないことが理想である」と言う人もいます。

以上のように、私たちは、手段と目的の両方の意味を持った行為が連鎖することで最終目的を達成することを無意識のうちに理解しており、そのために手段と目的としての行為を選んでいます。

違和感の正体

エンジニアをテクネーの持ち主として捉え、その行為が「何かを存在させるための制作行為」であると解釈すれば、「エンジニアにとって技術は手段である」という言葉を聞いたときに生まれる違和感の正体が明らかになります。この違和感は、「技術(テクネー)は制作活動そのものを可能にする能力および行為であり、それを活用することは手段と目的という両方の観点で優れている」 という事実を軽視することで生まれるのです。技術は、手段としての優秀さである「効率的に目的を達成する道具としての価値」と、目的としての優秀さである「制作活動において自分の能力を追求することの価値」という2つの価値を持っており、これらの価値が認められることで、初めて真の意味で「技術」になります。つまり、「エンジニアにとって技術は手段である」という言葉は、手段としての技術のみを認めているため、この発言者とエンジニアの間では技術の捉え方が異なっています。

何を改善すべきか?

続いては逆に、先ほどの違和感を引き起こした言葉の発言者が、どのような意図でそれを発したのかを考えます。前述の技術に対する認識の違いから分かる通り、発言者はテクネーの持ち主ではありません。彼らにとって技術は自分が使いこなす能力ではなく、他人(エンジニア)に依頼して利用するものです。したがって、彼らは技術における「目的としての価値」を経験したことがないのです。

発言者はテクネーの持ち主ではない、すなわちエンジニアではないことから、彼らは経営陣やマネージャーであることが多いでしょう。彼らの目的は事業の成長や利益の最大化です。このような彼らの立場を考えれば、彼らにとっては技術が本当に手段でしかないことが分かります。

では、「両者の立場が異なるため、この認識の相違を解消することはできない」と結論付けるべきなのでしょうか?おそらくそれはかなり悲観的な見方です。なぜなら、これはお互いの立場を理解する努力が足りないことによって顕在化する問題だからです。エンジニアは、経営陣やマネージャーに対して、「あなたにとって技術は手段でしかない」ことを認めつつ、「私にとって技術は手段であり目的でもある」と主張すべきです。各人が常に同じ価値観を持つ必要はありません。状況に応じて意見の相違を解決しようと努力することが重要です。


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