投稿日: 2024年10月15日
最終更新日: 2024年10月18日
初めに
「問題解決」と「ビジョンの実現」はソフトウェア開発を成功させるための大きな要素であると考えます。問題解決とは、バグ修正、パフォーマンス改善、脆弱性への対応、ユーザビリティの改善などの、エンジニアが日常的に取り組むタスクを指します。そして、ビジョンの実現とは、アーキテクチャの移行、海外への展開、プロセスの自動化などの、1つのマイルストーンに位置付けられるような取り組みを指します。問題解決は比較的リスクが低く、すぐに利益をもたらすのに対し、ビジョンの実現は比較的リスクが高く、大きな利益をもたらします。両者はソフトウェア開発プロセスにおいて密接に関連しています。例えば以下のような関係があります。
- ビジョンを実現する過程で新たな問題が生じた場合は、その問題を解決する必要がある
- 問題解決を繰り返すことでビジョンの実現につながることがある
- ビジョンの実現が既存の問題を一度に解決することがある
そのため、ソフトウェア開発プロジェクトを成功させるには、短期的な問題解決と長期的なビジョンの実現のバランスを取ることが重要です。「日々の問題に対応しながら長期的な目標を捉え続けること」や「大きなビジョンを追求しながらその過程で生じる具体的な課題に対処すること」が求められます。そして、このバランスを取るアプローチで有用なのがフォアキャスティングとバックキャスティングです。まずはこの2つの考え方の概要をまとめ、次に具体例を用いて理解を深めていきます。
フォアキャスティング
フォアキャスティングの概要
現状や過去の経験を基に将来を予測して計画を立てる手法です。将来の目標をあえて作らないことで、現在利用できるリソースと制約を考慮しながら実現可能性が高い解決策を探ることができます。この手法の強みは、長期的な目標設定よりも現在の問題解決に重点を置くため、迅速かつ実践的な行動が取れることです。そのため、既存の仕組みや工程の改善に適しています。一方で、イノベーションやパラダイムシフトを考慮しにくいため、実際に取る行動が、新しいソリューションの提供よりも既存の仕組みの改善に偏りがちになります。
フォアキャスティングの具体例
- 要件定義
- 現状の仕組みや業務内容の問題点をまとめ、それを基に改善すべきことを見つけ出す
- システム設計
- 現在の技術スタックや開発チームのスキルセットを考慮してアーキテクチャを設計する
- テスト
- 現在のシステムの問題点を基に、重点的にテストすべき機能を明らかにする
- 保守・運用
- ユーザーからのフィードバックや運用データを活用して、現在発生している問題を改善する
バックキャスティング
バックキャスティングの概要
望ましい未来の姿を設定し、そこから逆算して現在すべきことを考える手法です。現状の制約に囚われず、理想的な姿を描くことで既存の制約や前提に囚われずに物事を捉えられるため、新しく独創的で価値のある考えを生み出すことができます。この手法の強みは、長期的な目標を実現するための一貫した行動指針を示せることです。長期的な行動指針を示すことで、時間がかかる研究開発や人材育成に積極的に投資でき、結果としてイノベーションやパラダイムシフトを起こしやすい環境が生まれます。一方で、理想的な将来像が現状の制約と大きくかけ離れる可能性があるため、実現可能性が低い計画を立ててしまうリスクがあります。
バックキャスティングの具体例
「革新的な技術で、持続可能な食料生産の未来を創造する」というビジョンを掲げ、スマート農業ソリューションを提供するIT企業を例に考えてみましょう。
6年目から10年目まで
- 事業目標
- 全世界の農業従事者が利用できるスマート農業プラットフォームを確立する
- より多くの農業形態に対応したソリューションを完成させる
- 既存のインフラとの技術統合を進めることで新しい技術の活用を促進する
- ソフトウェア開発
- 農作物の管理を自動化するシステムを開発する
- 気候変動をより精確に予測するモデルを作る
- サードパーティアプリの開発を促進するために、サービス連携機能を強化する
1年目から5年目まで
- 事業目標
- ソリューションを新興国市場に展開する
- 農作物の育成から出荷までを支援するスマート農業モデルを確立する
- 農業技術について研究している機関との協働体制を構築する
- ソフトウェア開発
- 多言語・多地域に対応したプラットフォームを構築する
- 農業用のドローンとトラクターを統合的に管理するシステムを開発する
- 農業機械から得られたデータを可視化して分析するアプリを作る