2024年12月20日
2024年12月20日
初めに
近年、SNSプラットフォームとしてのTwitterの価値が失われつつあります。APIの有料化、突然の仕様変更、モデレーションの方針変更などにより、Twitterはもはや安定したプラットフォームとは呼べなくなりました。そこで、非中央集権型のプロトコルとして注目されているActivityPubが持つ特徴を踏まえ、TwitterからActivityPubに移行すべき理由を考えます。
データの主権を管理できる
現在のX利用規約を見ると、以下の記載があります。
サービス上でまたはサービスを通じてコンテンツを送信、ポスト、または表示することにより、お客様は、現在知られているまたは今後開発されるあらゆるメディアまたは配信方法で、あらゆる目的で、かかるコンテンツを使用、コピー、複製、処理、適応、変更、公開、送信、表示、アップロード、ダウンロード、および配信するための、世界的、非独占的、ロイヤリティフリーのライセンス(再許諾の権利を含む)を当社に付与するものとします。
Twitterの利用規約では、それぞれの投稿の著作権はユーザーに帰属すると明記されていますが、その投稿は、X Corp.社が現在開発している、あるいは今後開発するサービスで自由に改変して配布できるということになります。
さらに、最近ではユーザーの投稿がAIモデルの学習に利用されることも明記されました。
お客様は、このライセンスに、当社が(i)お客様によって提供されたテキストやその他の情報を分析し、その他の方法で本サービスを提供、促進、改善する権利(生成型か他のタイプかを問わず、当社の機械学習や人工知能モデルへの使用やトレーニングなど)、および (中略) が含まれることに同意するものとします。
つまり、ユーザーはX Corp.社がユーザーの投稿を自由に利用する権利を承諾していることになります。しかし、この方法ではユーザーがデータを完全に制御できません。
ActivityPubの場合はサーバーを自由に選択できます。さらに、ActivityPubというプロトコル自体がW3Cによって標準化され、ロイヤリティフリーで公開されているため、それぞれのユーザーが必要に応じて自分でサーバーを立ち上げることもできます。
もし自分が参加しているサーバーの管理者に不満を抱いた場合は、投稿データ、フォロー/フォロワーリストなどをエクスポートし、別のサーバーにインポートすることでデータを完全に移行できます。ActivityPubは標準的なJSONフォーマットを使用しており、異なるサーバー間でもデータ構造に互換性があるためです。
そもそも、Twitterなどのマイクロブログは本来、個人の表現や思考を記録し、他者と対話したり情報共有したりするものです。ユーザーが投稿しているのはあくまで個人の表現や思考であるため、本来はその個人に帰属すべきです。
広告に頼らなくていい
Twitterでは広告収入が主な収益源です。そのため、広告の質を改善するために非常に多くの行動データが第三者によって記録・分析されています。Xプライバシーポリシーには以下のように書かれています。
使用情報。 当社は、Xでのお客様のアクティビティに関する以下の情報を収集します。
- あなたがポストしたコンテンツやその他のコンテンツ(日付、アプリケーション、Xのバージョンを含む)、およびあなたが作成したブロードキャストとその作成日時、リスト、ブックマーク、参加しているコミュニティを含むブロードキャスト アクティビティ(スペースなど)に関する情報。
- 他のユーザーのコンテンツとのやり取り。これには、ユーザーのコンテンツが他のユーザーから@ポストまたはタグ付けされた場合、またはユーザーが他のユーザーのコンテンツに@ポストまたはタグ付けした場合の、リポスト、いいね、ブックマーク、共有、ダウンロード、返信など、およびユーザーが参加したライブ放送(ユーザーの視聴履歴、リスニング、コメント、会話、反応など)などが含まれます。
- プラットフォーム上で他の人(ユーザーがフォローする人やユーザーのフォロワーなど)とやり取りする方法や、暗号化されたメッセージに関連するメタデータ、そしてダイレクトメッセージを利用する場合のメッセージの内容、受信者、メッセージの日時など。
- 電子メールなどで当社と通信する場合、通信に関する情報や連絡内容を収集します。
- 当社は、ユーザーが当社の複数のサービスを横断して使用するリンク(当社からお送りする電子メール内のものを含みます)に関する情報を収集します。
整理すると主に以下の情報が収集されています。
- 投稿内容
- 投稿日時
- ブックマーク
- スペース
- リポスト
- いいね
- ダウンロード
- 返信
- メンション
- DM
もちろん、これらのデータはサービス改善のために利用されますが、ユーザーに適した広告を表示するためにも利用されます。言い換えれば、ユーザーは自分の個人情報をサービス提供者に売ることで、Twitterというサービスを使わせてもらっているに過ぎません。
X Corp.社が行っている広告ビジネスに関しても、安定しているとは言い難い状況です。Twitterの運営者が広告主に対して不適切な態度を取れば、広告収入が減少します。このような仕組みは広告主の意向に左右されやすい収益構造につながり、Twitterを中立的に運営できなくなります。
これに対してActivityPubベースのプラットフォームは、ユーザーが自由にサーバーを運営できるようにすることで運営コストを分散し、広告に依存しない収益モデルを実現しています。さらに、Mastodonの場合はPatreonなどを利用して企業やユーザーから寄付を集めることでmastodon.socialのサーバーを運用したり、Mastodonのコアメンテナを継続的に雇用したりしています。
異なるサービス間でコンテンツを共有できる
RSSは異なるサイトの記事をまとめて購読できる、いわばコンテンツ作成者から閲覧者への一方向の技術ですが、ActivityPubは双方のユーザーがコンテンツ作成者にも閲覧者にもなれる、双方向の技術です。そのため、ActivityPubは単一のサービス内だけでなく、異なるサービス間でもコンテンツを共有できます。
例えば、MastodonユーザーがMisskeyユーザーをフォローして投稿を閲覧することもできますし、PeerTubeに投稿した動画をMastodonで共有すると、タイムライン上で直接動画を再生できます。
従来のSNSでは、異なるサービスのコンテンツを外部のサービスから直接利用できませんが、ActivityPubでは、同じプロトコルで実装されている外部のサービスをより直感的に利用できます。
この相互接続の仕組みを利用したサービスも徐々に増えてきています。例えば、Flipboardが最近リリースしたSurfというサービスは、オープンプロトコルであるRSS, ActivityPub, AT Protocolをサポートしており、それらのプロトコルを利用するBluesky, Mastodon, Threadsなどのフィードをまとめて閲覧できます。